喫煙はニコチン依存症

タバコ税増税!「1箱1000円」時代到来か?賛否両論が噴出していますが、健康被害にスポットを当てれば喫煙者が激減し、喫煙者・非喫煙者ともにタバコが原因と考えられる病気(タバコ病)が減少することが期待されます。認識しておきたいのは、喫煙はニコチン依存症であるということです。タバコが高価になれば経済的理由のため、いわゆる根性で止められる方もいるかもしれません。しかし、長年の喫煙者は強度な依存が予想されるため、薬物中毒患者と同様、離脱のための治療や禁煙補助薬剤の導入が必要となるでしょう。2006年度の診療報酬改定において「ニコチン依存症管理料」が外来患者を対象に新設されました。また今年5月からは従来のニコチンパッチに加え内服薬(禁煙補助薬:バレニクリン)が使えるようになりました。

ニコチン依存症について

タバコは嗜好品ではありません。ニコチンにはヘロイン・コカインと同等の依存性の強さがあるためです。喫煙すなわちニコチン依存症は、血中のニコチン濃度を維持するために、一定時間おきに喫煙をし続ける「病気」なのです。ヘビースモーカーであれライトスモーカーであれ、喫煙を習慣としている人の殆どが罹っています。

ニコチンは喫煙後数秒で脳に達します。ニコチンは神経伝達物質の一種であるアセチルコリン1と化学構造が似ているため、脳内でアセチルコリンに成り代わって中脳の側坐核などにある前シナプス膜受容体(ニコチン性アセチルコリン受容体)に結合し、ドーパミン2などの神経伝達物質の過剰放出を引き起こします。
また、ニコチンは直接シナプス後膜の過剰興奮も引き起こします。しかしそれが長く続くと、シナプス後膜の受容体が減少し、シナプス前膜の本来の神経伝達物質放出能力も衰えてしまいます。そうなると、ニコチンなしではシナプスの神経伝達機能が保てなくなり、イライラ、落ち着かないといったニコチン離脱症状となって現れ、次のタバコへと手がのびることになります。

1アセチルコリン:副交感神経や運動神経の末端から放出される神経伝達物質。シナプス間での興奮伝達、副交感神経の興奮、骨格筋などの収縮を起こし、さらには血圧降下の作用も有する。
2ドーパミン:中枢神経系に存在する神経伝達物質。運動調節、ホルモン調節、快感の感情、意欲、学習などに関わる。ドーパミンは、興奮した状態を作るホルモン(神経伝達物質でもある)として知られるアドレナリンや、不安や恐怖を引き起こすノルアドレナリンに変化する。

増える日本のがん死亡率 

部位別がんの死亡率(下図)を見ると、男性では肺がんが急激に増えているのが特徴です。日本人では長年1位だった胃がんを抜いて1998年から肺がんが、がん死亡の1位になりました。日本人の1年間のがん死亡は約30万人。そのうちの6万人が肺がん死亡です。肺がんは50歳以上に多く、激増しているのは70歳代の高齢者で10年前に比べると3倍になっており、加齢と共に増加しています。これは戦後、たばこを吸うようになった人が非常に増加したため、その世代が発がん年齢に至り、その影響が統計になって出てきていると考えられています。この統計は、ゆくゆく高齢者になる我々への警鐘と思えます。更に問題なのは、受動喫煙(副流煙)の被害です。家庭内で夫婦のどちらかに喫煙習慣があった場合、配偶者が肺がんになる確率は、非喫煙夫婦の2倍になります。


喫煙は最大の健康破壊因子

喫煙は大気汚染や肥満などを抑え、先進国が抱えるナンバーワンの健康破壊因子になりました。世界銀行による報告書によると、タバコは発展途上国では1.4倍と影響が小さいものの、先進国では12.1%と最大の健康破壊因子になっています



喫煙により効果が弱まる薬

タバコ煙に含まれる多環芳香族炭化水素は、CYP1A2やグルクロン酸トランスフェラーゼなどの体内酵素を誘導して、抗精神病薬、抗うつ薬、抗不安薬、気管支拡張薬(喘息)、カフェイン(鎮痛)、降圧薬(高血圧)、抗不整脈薬、抗血栓薬、鎮痛薬などの効果を減弱させます。喫煙はこのほか、抗潰瘍(かいよう)薬、インスリン(糖尿病)、女性ホルモン、ビタミンCなどの効果を弱め、ベンゾピレンの発がん性を高めます。 

禁煙は精神力ではなく離脱症状との闘い

ニコチン離脱症状には個人差がありますが、①不快・抑うつ気分、②不眠、③怒りっぽくなる、④不安、⑤集中困難、⑥落ち着きのなさ、⑦心拍数の低下、⑧食欲増加/体重増加などがあります。手足の痺れや震えなどの激しい症状を訴える人もいます。離脱症状が強いと「禁煙は自分にとっては体によくない」「タバコを吸っていたほうが健康でいられる」と錯覚してしまうこともあります。離脱症状はニコチンに支配されていた体が、元に戻るための一時的な苦しみに過ぎません。精神力が弱いから禁煙できないわけではないのです。喫煙は「病気」ですから、荒療治をせず禁煙外来に受診し適切な診断と治療を受けることをお勧めします。また531日からは薬局でニコチンパッチが購入できるようになりましたので、ニコチンの依存度が高くない方は市販薬を用いたニコチン代替療法を行ってもよいでしょう。

禁煙治療に内服薬が登場

禁煙治療内服薬(バレニクリン)が医師に処方してもらう医療用医薬品として認可されました。

健康保険が適用されますが、医療機関や対象者に一定の条件があります。☆条件を満たしている医療機関については、日本禁煙学会のホームページ(URL)に掲載されています。http://www.nosmoke55.jp/nicotine/clinic.html

☆対象患者の条件は、以下4つに該当する人です。
ニコチン依存症に関するスクリーニングテスト(TDS)でニコチン依存 症と診断された者
1日の喫煙本数×喫煙年数(ブリンクマン指数)が200以上の者
ただちに禁煙することを希望している者
禁煙治療プログラムの説明を受け、同意している者
保険診療による禁煙治療を一度受けた人は1年経たないと再度受けられない。

ニコチンパッチは禁煙と共に使用し、徐々に使用量を減らしていきますが、バレニクリンは禁煙開1週間前から飲み始め、徐々に服用量を増やしていくのが特徴です。12週間の治療にかかる費用は、保険診療3割負担で\18,432(全額\61,440)です。ニコチンパッチによる治療が\12,003(全額\40,010)に比べやや高価です。タバコ1\1000となった場合は、18~19箱分の金額になります。バレニクリンは「禁煙治療内服薬」ですので、抑うつ気分などの副作用がまれに出ることがあります。治療を開始したら主治医の指示に従い、副作用を感じた場合は速やかに相談するようにしてください。


薬局で買えるようになったニコチンパッチ

531日からニコチンガムに加えて、ニコチンパッチが薬局で買えるようになりました。ニコチン依存症スクリーニングテストに該当しない軽微の依存症 受診時間がとれない多忙な方の禁煙チャレンジには良いでしょう。ニコチンパッチは現在3社、ジョンソン・エンド・ジョンソン「ニコレットパッチ」・ノバルティスファーマー「ニコチネルパッチ」・大正製薬/グラクソ・スミスクライン「シガノンCQ」が発売されています。購入価格は薬局により多少の差はあれ、上記のニコチンパッチ全額程度が見込まれますが、必要使用量により個人差があります。

<参考文献・参考資料>
●タバコ病辞典 吸う人も吸わない人も危ない 編集者:加濃正人、監修:松崎 道行、渡辺文学 実践 社
●日本循環器学会 禁煙治療のための標準手順書第3版
●喫煙者に対する禁煙支援・禁煙治療の推進  中村正和
●へるすあっぷ特集:広がる禁煙へのアプローチ 株式 会社 法研
●やめる禁煙、治す禁煙 薗はじめ 大月書店
☆厚生労働省 生活習慣から考える「がん」の予防 たばことがん
  http://www.med.or.jp/nosmoke/canser/index.html
☆日本禁煙学会 http://www.nosmoke55.jp/
☆国立がんセンター がん情報サービス
 http://ganjoho.ncc.go.jp/public/index.html