結核-忘れてはならない感染症-

 はしか、鳥・新型インフルエンザ、ノロウイルスなど、医療が進歩した今日でも、感染症対策は重要な課題となっています。そして、感染症のなかで忘れてはならないものに結核があります。結核は過去の病気と思われるかもしれません。たしかに以前にくらべて発症者は減ってきています。しかし、今でも全国で1日あたり80人の新しい患者が発生し、1日あたり6人が命を落としている、重大な感染症なのです。

1. 結核とは

  結核は、結核菌という細菌によって主に肺に炎症を起こす病気です。結核菌の混じったタンがせきやくしゃみと一緒に空気中に飛び散り、それをまわりの人が直接吸い込むことによってうつります。机の上や寝具などについたツバが乾燥し、空気中を浮遊してから感染を起こすことはないと考えられています。結核の初期症状はカゼとよく似ているため、結核と気づかずにまわりの人々にうつしてしまうことが懸念されます。微熱をともなう2週間以上のせきが続く場合、結核が疑われますので、すみやかに医療機関を受診なさってください。早期発見は本人の重症化を防ぐだけでなく、大切な家族や職場などへの感染の拡大を防ぐためにも重要です。

2. 結核菌が体内に入ったら必ず発病するのか

  結核は体内に入ったとしても、必ず発病するわけではありません。通常は免疫機能がはたらくため発病しませんが、重い糖尿病や免疫抑制剤、ステロイドによる治療など、免疫力が落ちると発病する可能性があります。また、発病したとしても、せきの症状がなく、タンの中に結核菌を出していない場合は他人にうつす恐れはありません

3. 予防と治療

  予防接種としてBCGがあります。毒力を弱めた結核菌を接種し、体内で軽い反応を起こさせることで、本当の結核菌が入ってきた際に、対抗する免疫をつけるねらいがあります。ただし、BCGは万能ではなく、重症の結核の発症を予防する効果はあるものの、中等度までの結核は予防できない場合もあります。なお、BCGは生後6ヶ月までに接種することになっており、成人が再接種することの有効性については明らかになっていません。

  発症した場合も、薬を服用すれば治すことができます。また、他者への感染のリスクも減ります。ただし、服用は6ヶ月間、毎日行わなければなりません。症状が消えたからといって、途中でやめてしまっては治らないばかりか、耐性ができて薬が効かなくなってしまうこともあります。根気よくきちんと内服を続けることが非常に大切です。

4. 診断

  診断法としてツベルクリン反応検査(ツ反)、胸部X線検査、細菌検査、QFTなどがあり、これらの検査結果を総合的に判断して診断がなされます。

  1 ツ反では結核菌のある成分を皮ふに注射します。結核の感染を受けた人では徐々に注射部分が赤くはれ、しこりが触れるようになり、2日目に最も強くなります。ただし、BCGの接種や他の感染症でも反応することがあるため、結果の解釈には慎重を要します。

  2 定期健診の胸部X線検査で結核が発見されることもあります。結核の特徴的所見として空洞がありますが、空洞以外は他の病気と同じような所見のことも多く、X線以外の検査とあわせて総合的に評価されます。

  3 タンをガラス板に塗りつけ染色し、顕微鏡で調べる検査もあります。短時間で結果が出ますが、結核菌以外でも陽性に出てしまうことがあります。また、以前は含まれる菌を培養して増やすことで診断を確定していましたが、結果が出るまで4-8週間かかってしまっていました。

4 最近では遺伝子検査 (PCR) により、数時間以内に細菌を検出することができるようになりました。さらに、QFTという血液検査が、BCGの影響を受けないため、ツ反に代わるものとして注目されています。ただし、ツ反同様、過去の感染か最近の感染かを区別することができないことや、検査機関が限られているなどの問題点も残されています。

5. 職場で発生した場合

  感染症法にもとづき、医務産業衛生部が保健所や当該部署などと十分話し合い、対策を行います。結核を発病された方と接触の多かった方(接触者)を把握し、比較的リスクが高いと評価された方に対して、接触者に対する調査(接触者健診)を行います。具体的には問診、感染の有無に関する検査(ツ反、QFT)、胸部X線検査、タンの検査などを実施します。ただし、感染してから2ヶ月たたないとこれらの検査結果にはあらわれません。また、発症の多くは感染してから2年までに起こります。したがってこれらの検査は職場で発生してから2ヶ月から2年の間に行われます。なお、職場の接触者にせきなどの症状がなければ、家族に感染するリスクはありません。

  日ごろから食事、運動、睡眠に留意し免疫力を高め、症状があればすみやかに医療機関を受診することで、結核の予防・早期発見につとめましょう。

(参考・引用)
・財団法人結核予防会のホームページ 
 http://www.jatahq.org/
・改正感染症法に基づく 結核の接触者健康診断の手引
 http://www.mhlw.go.jp/shingi/2007/07/dl/s0730-12g.pdf

以上