1. 健診項目の追加
@ 腹囲の測定
一部の人間ドック機関では、昨年より既に腹囲の測定を実施していますが、来年4月以降からは全ての人間ドックで全員に腹囲測定を実施します。但し、以下の方は除外される場合があります。
●妊娠中の女性、その他の腹囲が内臓脂肪の蓄積を反映していないと診断され
た者
●BMI(ボディマス指数=体重kg÷身長(m)2)が20未満である者
●自ら腹囲を測定し、その値を申告した者(BMI 22未満である者に限る)
A LDLコレステロール検査
日本動脈硬化学会の「動脈硬化疾患予防ガイドライン2007年版」に公表された内容では、「高脂血症」という疾患名は「脂質異常症」に置き換えられ、また、診断基準も総コレステロール値の代わりに、LDLコレステロール値・HDLコレステロール値・中性脂肪値 が診断基準とされました。
この基準が特定健診に取り入れられ、LDLコレステロール値の検査が必須項目となりました。
日本動脈硬化学会が基準項目を変更した理由は、次のとおりです。
●脂質異常の発生リスクが高いのは、悪玉といわれるLDLコレステロール値の
高い人で、また、善玉といわれるHDLコレステロール値が低いとよくないこ
とが明らかになった
●LDLコレステロールとHDLコレステロールを含む総コレステロール値だけで
は、日本人の場合HDLコレステロール値が高い人を含む場合があり、リスク
を正確に測ることができない
●HDLコレステロール血症を含む表現として「高脂血症」と呼ぶのは適当でない
<内臓脂肪の蓄積に着目してリスクを判定> |
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@血糖:空腹時血糖100mg/dl以上 または |
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<ステップ1、2から保健指導対象者をグループ分け> |
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●服薬治療中の人は特定保健指導の対象としない ●前期高齢者(65歳〜74歳)は、積極的支援の対象になった 場合でも動機づけ支援とする |
3. 標準的な特定保健指導
@ 情報提供レベル
定 義 |
対象者が生活習慣病や健診結果から自らの身体状況を認識するとともに、健康な生活習慣の重要性に対する理解と関心を深め、生活習慣を見直すきっかけとなるよう、健診結果の提供にあわせて、個人の生活習慣やその改善に関する基本的な情報を提供することをいう。 |
対象者 |
特定健康診断を受診した者全員を対象に、年1回、健診結果と同時に実施する。 |
A 動機づけ支援
定 義 |
対象者が自らの健康状態を自覚し、生活習慣の改善に係る自主的な取組みの実施の助けとなることを目的として、厚生労働大臣が定める方法により、医師・保健師または管理栄養士の面接による指導のもとに行動計画を策定し、食生活の改善指導または運動に関する専門知識・技術を有すると認められる者が生活習慣改善のための取組みに係る動機付けに関する支援を行なうとともに、計画の策定から6ヶ月以上経過後における当該計画を策定した者による当該計画の実績に関する評価を行なう保健指導をいう。 |
対象者 |
2.の「ステップ3」で 動機づけ支援レベル に該当する者 |
支援期間 頻 度 |
面接による支援のみの原則1回。完了までの期間は、面接時から6ヶ月経過後に実績評価を行なうことから、約6ヶ月となる。 |
支援方法 |
1人当たり20分以上の個別支援、または1グループ(8名以下)当たり80分以上のグループ支援とする。 |
B 積極的支援
定 義 |
対象者が自らの健康状態を自覚し、生活習慣の改善に係る自主的な取組みの継続的な実施の助けとなることを目的として、厚生労働大臣が定める方法により、医師・保健師または管理栄養士の面接による指導のもとに行動計画を策定し、食生活の改善指導または運動に関する専門知識・技術を有すると認められる者が生活習慣改善のための取組みに役立つ働きかけを相当な期間継続して行なうと共に、計画の進捗状況に関する評価及び計画の策定の日から6ヶ月以上経過後における計画を策定した者による当該計画の実績に関する評価を行なう保健指導をいう。 |
対象者 |
2.の「ステップ3」で 積極的支援レベル に該当する者 |
支援期間 頻 度 |
初回時に面接による支援を行い、その後、3ヶ月以上の継続的支援を行なう。完了までの期間は、初回時面接(行動計画作成の日)から6ヶ月以上経過後に実績評価を行なうことから、約6ヶ月となる。 |
支 援 ポイント |
3ヶ月以上の継続支援はポイント制に基づき実施される。支援A(積極的関与)方法で160ポイント以上、支援B(賞賛・奨励)方法で20ポイント以上、合計180ポイント以上の支援を実施することを最低条件とする。 |
支援方法 |
1人当たり20分以上の個別支援、または1グループ(8名以下)当たり80分以上のグループ支援とする。 |
4. 厚生労働省が解説する生活習慣病対策の必要性(抜粋)
H16年現在、医療費が占める生活習慣病の割合は国民医療費(32.1兆円)の約3分の1(10.4兆円)となっています。生活習慣病の中でも、特に心疾患、脳血管疾患などの発症の重要な危険因子である糖尿病、高血圧、高脂血症、等の有病者やその予備軍が増加しています。これらの疾患の発症前の段階であるメタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)が強く疑われる者とその予備軍を合わせた割合は、男女とも40歳以上では高く、男性では2人に1人、女性では5人に1人の割合に達しています。国民の(医療機関)受療の実態は、高齢期に向けて生活習慣病の外来受診が徐々に増加し、75歳頃を境に生活習慣病を中心とした入院受療率が上昇しています。これを個人に置き換えると、不適切な食生活や運動不足等の不健康な生活習慣が、やがて糖尿病、高脂血症、肥満症などの生活習慣病の発症を招き、通院し投薬が始まり、生活習慣の改善がないままに、その後その疾患が重症化し、虚血性心疾患や脳卒中等の発症に至る経過をたどることになります。しかし、このような状態は若い時からの生活習慣病の予防により回避できるものです。生活習慣病の境界域の段階で留める事が出来れば、通院を減らすことができ、更には重症化や合併症の発症を抑え、入院に至る事を避けることができます。また、その結果として中長期的には医療費の増加を抑えることも可能となります。
5. まとめ
2008年4月から、1年に1回受診していた定期健康診断が特定健診項目も含むようになり、また結果のフォロー体制が大きく変わります。健康保険組合に実施義務を課した厚生労働省の省令ですが、国民1人当たりの医療費の増加が高齢化に伴い、加速の一途を辿っていることは事実でしょう。全国の保険組合や市町村では着々と体制準備が進められており、今まで健診を受けることがなかった方々への働きかけも強化される模様です。糖尿病や脂質異常症などの生活習慣病は、殆どが自らの強い意志のコントロールで改善または留めることが可能な疾患です。軽症だった時に改善さえしておけば・・・と病床で涙した方々の経験を無にしない為にも、「俺、メタボ!」と軽く流すことはやめましょう。さあ、あと8ヵ月後の健診からスタートします。おなかがポコンと出ていると気にしている方!・体重が少しずつ増えてしまっている方!自主的な改善方法を御存知でしたら今から実行あるのみです。御存知でない方も、ご自身の食べ方や食事量、日常生活動作量や運動量をチェックすることから始めてみましょう。
<参考・引用>
●特定健康診査・特定保健指導の円滑な実施に向けた手引き H19年7月 厚生労働省保険局
●標準的な健診・保健指導プログラム(確定版) H19年4月 厚生労働省保険局
●へるすあっぷ21「特定健診・保健指導の実施に向けて」 2007.NO.273 July 株式会社法研
●Medical
ASAHI 2007 July「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2007年版」 寺本民生著