受動喫煙による健康被害を無くそう
昨年はたばこ税増税が大きな話題を集めました。1箱あたり110〜140円の値上げ幅は過去最大のものでした。この値上げを機に禁煙にチャレンジした方もいらっしゃるのではないでしょうか?ある企業の調査によると、値上げを機に禁煙にチャレンジしたのは喫煙者の4割以下にとどまり、そのうち約6割の人は1ヶ月足らずで失敗したとのことです。一方、禁煙にチャレンジしなかった約6割の人の増税対策は第1位「たばこを買いためた(49.5%)」、第2位「吸う本数を減らした(41.6%)」でした。今回の過去最大の値上げでさえも禁煙への大きな流れを作ることは難しいという現実を改めて浮き彫りにしました。
値上げとともに、たばこに関してはもうひとつの大きな動きがあります。受動喫煙防止対策の強化です。労働者の「健康障害防止」の観点から、一般の事業所や工場等の全面禁煙、または空間分煙を事業者に義務付け、飲食店等の顧客が喫煙する職場には、換気等により労働者の受動喫煙の機会を低減することを義務付けるとした報告書が昨年厚生労働省によりとりまとめられました。ただし、対策を実施していない事業者への罰則規定については見送られ、労働基準監督署からの指導にとどめるとしています。しかしながら、たばこ税の増税傾向と受動喫煙防止対策強化の方向性については今後も大きな変化はないと予想されます。
今回は、受動喫煙防止対策についてとりあげます。そもそも受動喫煙とは何なのか、どのような有害物質を含み、健康にどういった影響を及ぼすのか考えていきたいと思います。受動喫煙は家族や同僚にも健康被害を及ぼしかねない深刻な問題です。今回のテーマが受動喫煙防止への理解につながり、さらに一歩進んで禁煙にチャレンジするきっかけとなれば幸いです。
1.年間約6,800人が受動喫煙により死亡と推計
2010年に厚生労働省研究班が我が国における受動喫煙による肺がんと虚血性心疾患の死亡数が年間約6,800人と推計されるとの推計結果を発表しました。これは、2010年の交通事故死者数が4,863人であることを踏まえると、受動喫煙による推計死亡者数がそれを上回るという驚くべき結果となっています。なかでも注目されるのは、約6,800人の約半分の53%にあたる約3,600人については職場での受動喫煙が原因による死亡と推計されていることです。この結果を受けて、今後職場における受動喫煙防止対策強化の流れがより加速するものと思われます。
2. 受動喫煙とは
たばこの煙には、喫煙者が吸い込む「主流煙」とたばこの先から立ち昇る「副流煙」とがあります。副流煙を自分の意思とは無関係に吸い込んでしまうことを「受動喫煙」と呼んでいます。なお、健康増進法第25条では「室内又はこれに準ずる環境において、他人のたばこの煙を吸わされること」と定義されています。
3. たばこの煙の成分
*60種類の発がん性物質を含みます
たばこの煙には4,000種類を超える化学物質が含まれ、そのうち60種類は発がん性物質であることがわかっています。【表1】でたばこの煙に含まれる化学物質の一部と、その化学物質を含む具体的な例を紹介します。いずれも生物にとって避けるべき有害物質であることは言うまでもありません。
*副流煙の方がはるかに有害です
たばこの煙には主流煙と副流煙があります。主流煙は燃焼温度が高く完全燃焼に近い状態です。しかもフィルターでろ過することにより、一部の有害物質はある程度取り除かれています。それに比べて、先端から立ち昇る副流煙は燃焼温度が低く不完全燃焼であり、ろ過もされません。副流煙はアンモニアが残留しやすくアルカリ性のため、目や鼻の粘膜を刺激する原因となります。たばこの煙で目や鼻がつんとするのはそのためです。副流煙の方が発がん性物質をはじめ、はるかに多くの有害物質を含んでおり、主流煙に比べ体への影響はより深刻です。【表2】
*受動喫煙による急性影響
体の粘膜がたばこの煙、特に副流煙にばく露することによって生じる刺激症状としては、咳、喘息、鼻症状(くしゃみ、鼻閉、鼻汁、かゆみなど)、眼症状(痛み、流涙、かゆみ、瞬目など)、頭痛などが挙げられます。これらの症状は非喫煙者の方がより強い反応を示すことが明らかにされています。わずかな臭いでも非喫煙者の方が敏感に感じるのはそのためです。
*受動喫煙による慢性影響
現在、受動喫煙と肺がん及び虚血性心疾患(心筋梗塞や狭心症など)との因果関係が明らかになっています。受動喫煙によって、肺がんによる死亡率は1.19倍、狭心症や心筋梗塞による死亡率は1.25倍に増加します(日本医師会HP「たばことがん」参照)。子供への影響も深刻で、喘息の悪化、肺炎・急性気管支炎、そして発がんの危険性も有意に上昇するとされています。
なお、2006年に公表された「米国公衆衛生総監報告」では、受動喫煙による健康への影響について次の報告がなされています。
4. 職場の受動喫煙防止対策、守っていますか?
*空気清浄機の効果に対する誤解
タバコの煙はガス状成分と粒子状成分に分けられます。空気清浄機のフィルターでろ過することができるのは、粒子状成分(粉じん)の一部にしか過ぎません。ガス状成分については空気清浄機で取り除くことはできません。たばこには4000種類を超える化学物質が含まれます。個人用保護具で考えても、数千種類の化学物質に対して同時に効果を持つものは存在しません。このことからも、空気清浄機で4000種類に及ぶ化学物質のすべてをろ過することが不可能なのは明らかです。
*喫煙室の外にたばこを持ち出していませんか?
喫煙室を一歩出ると、たばこの煙は瞬時に拡散します。わずかな量であっても、臭いによる刺激や不快感、有害物質による健康被害を生じます。たとえ少しの時間であっても、喫煙室の外にたばこを持ち出さないようにしましょう。
5. 一人一人の意識の持ち方が問われています
昨今の受動喫煙防止対策の強化については喫煙者の立場からは複雑な気持ちかもしれません。しかし、受動喫煙対策が不十分であれば、非喫煙者に深刻な健康被害を及ぼすことを十分理解する必要があります。受動喫煙を無くすためには、喫煙者の理解と協力が欠かせないのです。
そして、たばこによる健康への悪影響を最も受けているのは、主流煙と副流煙の双方を吸い込む喫煙者自身です。受動喫煙防止対策の重要性を理解するとともに、喫煙者一人一人が禁煙へ取り組むことこそが、たばこによる健康被害からすべての人を守る大きな第一歩となるのです。
(参考・引用)