毒をもつ植物


 自然毒とは生物が生産、保有する生理活性物質で、他の生物に対してのみ有害作用を示すもので、植物性自然毒と動物性自然毒に大別されます。今回は、植物性自然毒について記します。植物の毒性獲得の理由は、種子や実、若芽が動物、昆虫や鳥類などの餌となることを抑止することが目的とされています。その毒性は致死性のものから下痢程度の症状で済むものまで物質により異なります。

 植物性自然毒によるヒトの中毒の殆どが食中毒で90%はキノコによります。キノコ以外にはアルカロイド(注1)等を含有する草花によるもので、後半で述べますが代表的な物にはトリカブトのアコニチン、ジャガイモのポテトグリコアルカロイド(ソラニン)、青梅のアミグダリンなどがあります。 

 (注1) 窒素原子を含み、アルカリ性を示す天然由来の有機化合物の総称です。現在、近似種を含め約数千種があるといわれています。


1.キノコの毒
 毒キノコとして、ツキヨタケ、クサウラベニタケ、タマゴテングタケ、シロタマゴテングタケ、ベニテングタケ、テングタケ、ドクササコ、カキシメジ、イッポンシメジ、ニガクリタケ、キホウキタケなど、わが国では50種ほど存在しています。 これらの毒キノコと食用キノコとの判別は非常に難しく、古くから伝わる鑑別法で安易に決めつけずに“わからないキノコもしくは疑わしいキノコは絶対に食べない”ことを認識して、安全にキノコ採取を行ってください。
 昨年の厚生労働省の統計では、食中毒の80%以上が毒キノコによるもので、そのうち、30%がツキヨタケ、又はクサウラベニタケの誤食によるものです。

1) ツキヨタケ
 夏から秋にかけてブナやナラ等の広葉樹の枯れ木に群生します。 幼菌はシイタケに、成菌はムキタケ、ヒラタケに類似し、特にムキタケとは同一場所に生える場合もあり、間違えることも多く、2005年10月、長野県JA信州諏訪の農産物直売所で誤って販売され中毒事故が発生しています。食後約30分から3時間程度で嘔吐、腹痛、下痢などの食中毒の症状が現れ、ものがすべて青く見える色彩幻覚を伴うことがあります。

2) クサウラベニタケ
 特徴としては傘径3〜5cm柄の長さ5〜10cmの大きさで、写真のようにひだは紅色を呈していることから食用のホンシメジやウラベニホテイシメジなどと間違えやすいキノコです。 中毒症状としてはツキヨタケと同様、腹痛、嘔吐、下痢等の胃腸障害を起こします。鑑別法としてはホンシメジ、ウラベニホテイシメジでは柄が中実であるのに対し、クサウラベニタケは柄が中空程度の差で、区別が難しいので注意を要します。

3) カエンタケ(火焔茸)
 キノコで唯一、皮膚刺激性があるので汁を触るだけでも危ないといわれています。 嘔吐・腹痛・下痢などの消化器症状に次いで、全身の皮膚の糜爛(びらん)・呼吸困難・言語障害・白血球と血小板の減少・造血機能障害・多臓器不全といった多彩な症状が現れて致死率が高く、僅か2-3日で死に至り、そうならない場合でもこれらの症状は1か月ほども続きます。その上、回復しても小脳の萎縮による運動障害・脱皮・脱毛などの後遺症が残ることがあります。


2. 草花の毒 (アルカロイド、配糖体*など)
 アルカロイドや配糖体(注2)等を持つ草花のうち、身近で見かける可能性があり、注意を要するものを数種類紹介します。
      (注2) 糖構造を一部に含む天然化合物
1) トリカブト
 塊茎にアコニチンというアルカロイドを含みます。神経伝達を阻害し、神経・筋麻痺(特に心筋細胞に選択性が高い/心臓毒)をおこします。 口唇・舌のしびれ、流涎、言語不明瞭、呼吸麻痺、血圧低下、循環器症状、消化器症状があります。春の山菜である同じキンポウゲ科のニリンソウやフウロウソウ科ゲンノショウコと間違われやすい。

2) ジャガイモ
 ジャガイモの芽や青くなった皮に含まれるポテトグリコアルカロイド(ソラニン)は、副交感神経を抑制し、腺分泌抑制、散瞳、消化器・気管支の弛緩、心拍増加、血圧上昇を引き起こします。 芽や皮はあらかじめ取り除き、調理する、特に、緑化した部分は厚くむきとって下さい。


3) 青梅
 梅の未成熟果(青梅)に含まれる青酸配糖体(アミグダリン)は、果肉に含まれる酵素あるいは、腸内細菌によって加水分解され青酸が生じ腹痛をおこします。


4) スズラン
 全草に含まれる強心配糖体(コンバラトキシン)は、水溶性が高く、切り花の水を誤飲しての死亡例があります。





5) スイセン
 スイセンに含まれる水溶性アルカロイドのリコリンは、嘔吐、下痢、血圧低下、中枢神経麻痺などを引き起こします。ニラと間違われ易く誤食例があります。 スイセンは無臭ですが、ニラには独特の臭いがあります。


6) たばこ草
 たばこ草を乾燥し製品化したタバコに含まれる主なアルカロイドのニコチンは、中枢神経、自律神経、および神経筋接合部のニコチン作動性アセチルコリン受容体に結合し、神経を興奮させます。ジュースの空き缶を灰皿代わりに使用して、誤って乳幼児が飲んでしまう事故は多く発生しています。タバコのニコチンは水溶性が高く、重大な健康障害が発生する場合もあります。乳幼児のいるご家庭では、灰皿の使用と片付け保管を徹底してください。 



3. 最後に
 疑わしい野生のキノコや草木は、採らない、食べない、配らない、を基本としもし誤食し、症状がみられたら日本中毒情報センターの中毒110番・電話サービス(参考・引用欄にHPアドレス記載)に連絡するか、医療機関を受診して下さい。医療機関を受信する際は、現物を持参し、形態、採取場所、調理方法、摂取量、摂取時刻、他に食べたもの、症状とその発現時刻、 他に食べた人がいるかどうかなどを詳しく伝えて下さい。これから春になりいろいろな花が咲きますが、他に身近な花のアジサイにもアルカロイドが含まれ毒があります。きれいな花には毒のあるものがあります。皆さん気をつけましょう。


(参考・引用)
内藤裕史      中毒百科  南江堂
厚生労働省    自然毒のリスクプロファイル
   http://www.mhlw.go.jp/topics/syokuchu/poison/index.html
(財)日本中毒情報センター 中毒110番・電話サービス
   http://www.j-poison-ic.or.jp/homepage.nsf