前立腺をさらに細かくみると、尿道に近い側から順に「移行域」、「中心域」、「辺縁域」の3つの領域から成り立っています(図B)。(参考:前立腺が肥大することによって、尿が出にくくなったり、頻尿・残尿感などの尿のトラブルを引き起こすのは前立腺肥大症です。前立腺肥大症は尿道に近い移行域から発生することが多いため、比較的早期から症状が目立ちます。)
図B 前立腺の構造
2. 前立腺がん
*症状と特徴
前立腺がんは多くが尿道から離れた辺縁域で発生します。そのため、がんがある程度大きくなるまでは尿道を圧迫しないために排尿障害は起きにくく、初期では特有の症状はありません。進行すれば排尿障害や残尿感など前立腺肥大症と似た症状がみられます。また、がんの進行が比較的遅いのが特徴で、治療をしなくても余命に大きく影響しないと判断される場合には、積極的に治療を行わずに定期的な検査でがんの状況をチェックしながら様子をみることもあります(待機療法)。また前立腺がんは進行すると骨に転移しやすい性質があり、腰痛の原因を調べるために骨の検査をしたところ前立腺がんの骨への転移が見つかるようなケースもあります。
*PSA検査(血液検査)
前述のように前立腺がんは、その初期には特有の症状がないため、早期発見にはPSA検査が用いられています。PSAとは、前立腺の細胞が産生する酵素(タンパク質の一種)で、通常も血液中に存在していますが、前立腺がんになるとPSAの生産量が増加します。PSA検査では採血をして血中のPSAの値を調べます。そして結果が4.0ng/ml以上であればがんの可能性を疑ってより詳しい検査を行うことになります。4.0-10ng/mlはグレーゾーンと呼ばれており、その25-30%にがんが見つかるとされています。10ng/mlを超えるとがんが見つかる確率はさらに上昇します。なお、日本泌尿器学会では50歳以上の男性に前立腺がんの検査(PSA検査)を推奨しています。
*生検
PSAはあくまでも指標であり、がん細胞そのものではないので、PSA検査で前立腺がんが疑われる場合には、より詳しい検査が必要になります。(前立腺肥大症でもPSAが上昇することがあります。)検査では前立腺の組織を採取して(生検)がん細胞の有無や性質(悪性度)を調べます。
具体的な検査の方法としては、肛門から器具を挿入して腸壁越しあるいは会陰部(肛門と外陰部の間)から直接針を刺して前立腺の組織を採取します。採取した組織から、がん細胞の有無やがん細胞がみつかった場合にはその性質(悪性度)を詳しく調べます。
また、前立腺肥大症の検査をきっかけに前立腺がんが疑われた場合にも同様に生検を行って詳しく検査します。精密検査の結果、前立腺がんと診断されればMRIやCT、骨シンチグラフィーなどの検査を行い、体内の他の臓器やリンパ節、骨への転移がないかどうかを調べます。治療は、前立腺がんの場所や大きさ、転移の有無やがん細胞の性質(悪性度)など、患者の年齢や希望などを総合的に判断して決められます。
*がんの進行度(病期)分類
がんの進行度は、日本泌尿器学会によってA〜Dの4つの病期に分類されています。(このほか、国際的にがん一般に対してTNM分類という分類法も用いられています)
*治療
検査の結果、治療が必要と判断されれば、がんの進行を防ぐために適切な治療を受けることが重要です。がんの進行度合いによって、主に以下の治療法の中から単独、または組み合わせて選択されます。
<手術療法>
前立腺そのものを周囲の組織と一緒に切除します。開腹して行う場合と、腹部に何か所か小さな穴を開け、そこから手術器具やカメラを入れてモニターを見ながら操作する場合(腹腔鏡下摘出術)があります。おもに、病期がAやBの段階、つまりがんが前立腺の内部にとどまっているときの治療法です。
<放射線療法>
近年技術の進化が著しく、現在では手術療法と同程度の治療効果が得られています。放射線を発する小さなカプセルを前立腺内に埋め込み、体の内側から照射する「組織内照射療法」と、放射線を体の外から照射する「外照射療法」があります。病期Cまでの治療法です。
<内分泌療法>
前立腺は男性ホルモンの影響を受けて活動し、前立腺がんもまた男性ホルモンによって増殖します。そのため、男性ホルモンの産生や働きを抑える薬を使用することでがんを増殖させないようにするものです。すべての病期で適応があります。
<待機療法>
直腸診(肛門から指を挿入して前立腺の硬さや大きさを調べる検査)や超音波検査でがんを確認できなかったり、PSAの値が20ng/ml以下でがんの悪性度が低い、がんが小さいなどの条件を満たし、積極的に治療を行わなくても余命に大きく影響しないと判断される場合に定期的にがんの状態をチェックしながら経過をみる方法です。
例えば次のような光の利用が考えられます。
3. 最後に
前立腺がんには進行が比較的遅い特徴があります。そのため前立腺がんが見つかったからと言って、必ずしもすべてのケースで積極的な治療が必要であるとは限りません。待機療法のように定期的にがんの経過を確認するだけの場合もあり、この点が他のがんの治療法とは異なる最大の特徴です。そういった特徴も押さえたうえで、患者側が主体的に治療に関わる姿勢が前立腺がんでは特に求められると言っていいでしょう。病気の特徴を踏まえた上で積極的に検査を受ける、これが賢い検査の受診法といえるのではないでしょうか?
以 上